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「ギア規制」の背景と根拠について
「ギア規制」の背景と根拠について

「ギア規制」の背景と根拠について

フランス自転車競技連盟(FFC)が昨日、2022年1月から、U17カテゴリーのギア規制を取り下げることを発表しました。U19の規制はすでに、2019年をもって解放していたので、U15を卒業すると、ギア規制が一切なくなるということになります。日本では、「ギア規制」のルールに対する認識が古かったり、浅かったりしているので、この記事ではギア規制の背景と根拠について述べたいと思います。

ギア規制とは何か?&その現状

自転車ロードレース競技においては、選手の年齢に合わせて「ギア規制」という、外部からみたら不思議に思うような仕組みが存在します。

日本の場合、U19(17、18歳)の選手は7.93m(52×14)、U17(15、16歳)の選手は7.01m(46×14)、U15(13、14歳)の選手は6.10m、U13(11、12歳)の選手は5.66mにギア規制が設定されています(一回転で自転車が進む最大距離のこと・ギアは700×23cのホイールを利用の場合、参考として)。

U19の7.93mに関しましては、UCI(自転車国際競技連合)が世界共通で定めている数値ですが、U17以下はUCIが管理しているカテゴリーではないため、各国のNF(自転車競技連盟)に任されています。そのため、国によって、大きなバラつきがあります。

例えば、ヨーロッパでは日本と同じ規制を設けているのはドイツとオランダのみです。

ドイツ
U17 : 7.01m(46×14)
U15 : 6.10m(40×14)

オランダ
U17 : 7.01m (46×14)
U15 2年目 : 6.55 m  (46×15)
U15 1年目 : 6.14 m (46×16)
(オランダは、U15を更に二つに分ける仕組み)

ここからは私の推測なのですが、日本は恐らくオランダ古代の規定をそのまま導入し、それ以降ずっと変更されずに今に至るということなのではないかと考えています。

一方で、フランスやベルギー等では、規定がまた違います。参考まで、現時点でヨーロッパ各国の規定を下記に記載します。

フランス(2021年まで)
U17:7.62m(50×14)
U15:7.01m(46×14)
(私の時代では、U17は7.47m(49×14)だったが、2013年に変更された)

ベルギー
U17 : 7.32m(48×14)
U15 : 6.40m(48×16)

スイス
U17:6.94m(52×16)
U15:6.10m(46×16)

イタリア
U17:6.94m(52×16)
U15:6.20m(52×18)

デンマーク
U17:6.94m(46×14)
U15:6.20m(42×14)

そもそも、なぜギアを規制しているか?

ギア規制が初めて導入されたのは1921年に開催されたスカウティングを目的としたトラック大会だったそうで、100年を超える歴史の長い措置です。当時から、規制の理由としてあげられているのは、「筋力(トルク)を重視した運動は負荷が高いのに対して、柔軟性(ケイデンス)を重視した運動は負荷が低い」という仮説があり、成長期に高い負荷をかけることが成長に影響をもたらすことが懸念されています。

そこから、人類の遺伝的や文化的な変化、機材メーカーの供給やカテゴリー分けの仕組み等に左右されてきましたし、一時期なくなったカテゴリーもありますが、若手選手を怪我や障害から守ること、伸びしろを担保してプロに上がるまでに「燃え尽きてしまう」ことがないようにすることを理由として、ずっと規制が行われてきたのが自転車ロードレース競技の長い歴史のひとつです。

フランス(及びUCI)でギア規制に対する考え方が再検討されている理由

ところが、ロードレース種目とトラック種目では100年以上の歴史のある措置であることに対して、マウンテンバイク、シクロクロスやBMXという、比較的に発展の新しい種目では規制が存在していませんが、特定の影響が観察されたことはなく、科学的な根拠が存在しないということで、近年はUCIをはじめ、ヨーロッパ各国はギア規制に対する考えを再検討しはじめています。連盟専任の医者の依頼のもと、「ギアを規制するより、ディレーラーの正しい使い方を教わった方がいい」という仮説をもとに、フランス自転車競技連盟が2019年にU19の選手6名に対する実験調査を実施したところ、規制されているレース(U19のみの場合)より、規制がされていないレース(大人と混走する場合)の方が、観察された最高ケイデンスが高い、という結果が明かされました。ようするに、ギア規制を設けることはそもそも、高ケイデンスでの運動を促しているわけではない、ということです。

その背景には、フランスは近年、トルク力が重視とされているタイムトライアル種目で世界レベルでの成績が悪かったことがあり、その原因の一つとして、ギア規制が挙げられていたこともあります。また、サッカーをはじめとする他のスポーツに見習い、自転車競技でも近年、ネオプロがプロ契約を結ぶ時期がどんどん若年化していることも注目されています。

この調査を受けて、2020年より、フランス自転車競技連盟の規定上、U19カテゴリーのギアを開放する方針を決めました。
国際舞台では、UCIはまだ規定を改めていませんので、今年はフランス代表の選手から矛盾が指摘されることもありましたが、UCIも、U19カテゴリーに関するギア規制を取り下げることを検討していることを明らかにしています
そうなれば、UCIはU19のギア規制しか差がめていないわけですから、UCIの規定上、ギア規制のルールが一切なくなるということになります。

更に、U17カテゴリーに関しても、フランス自転車競技連盟が2021年12月31日をもって、ギア規制を取り下げることを発表しました。もともと、U17カテゴリーへの適応も検討されてはいましたが、コロナ禍で機材を手配するハードルが莫大的に上がったことが転換点だったとされています。今のところ、自転車関係者からは、批判の声が上がってます(FFCを含め、政府や有権団体に対する批判が盛んなのもフランス文化です)が、今年7月に東京オリンピックフランス代表GMとして来日したエマニュエル・ブルネ氏はこう説明しています:「トルク力の向上を目的とする運動は、健康に影響をもたらすどころか、選手の成長の一環として必要不可欠な要素であり、自転車だけではトルク力の強化が不十分であることまで科学的に証明されています」。