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自転車で地域&人づくり
Tom Bossis

Tom Bossis

日本では、野球やサッカー、バスケなど、古くから人気のあるスポーツは「スタジアムスポーツ」であり、「都市型スポーツ」とも呼ばれます。

しかし日本の次世代が面する課題は「地方再生」であり、「少子高齢化」や「環境問題」です。

自転車は、地域そのものがスタジアム。自然が豊富で、交通量が少なく、冒険心を掻き立てる「地方」にこそ、魅力が詰まっているのが自転車の価値観です。そのため、自転車は「地方型スポーツ」とも言えます。

この価値観に共感する人を増やし、受け皿を整えることで、日本社会が抱えている課題を解消し、持続可能な暮らしを実現できると確信しています。

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  • 「ギア規制」の背景と根拠について
    1 December 2021
    「ギア規制」の背景と根拠について
    フランス自転車競技連盟(FFC)が昨日、2022年1月から、U17カテゴリーのギア規制を取り下げることを発表しました。U19の規制はすでに、2019年をもって解放していたので、U15を卒業すると、ギア規制が一切なくなるということになります。日本では、「ギア規制」のルールに対する認識が古かったり、浅かったりしているので、この記事ではギア規制の背景と根拠について述べたいと思います。 ギア規制とは何か?&その現状 自転車ロードレース競技においては、選手の年齢に合わせて「ギア規制」という、外部からみたら不思議に思うような仕組みが存在します。 日本の場合、U19(17、18歳)の選手は7.93m(52×14)、U17(15、16歳)の選手は7.01m(46×14)、U15(13、14歳)の選手は6.10m、U13(11、12歳)の選手は5.66mにギア規制が設定されています(一回転で自転車が進む最大距離のこと・ギアは700×23cのホイールを利用の場合、参考として)。 U19の7.93mに関しましては、UCI(自転車国際競技連合)が世界共通で定めている数値ですが、U17以下はUCIが管理しているカテゴリーではないため、各国のNF(自転車競技連盟)に任されています。そのため、国によって、大きなバラつきがあります。 例えば、ヨーロッパでは日本と同じ規制を設けているのはドイツとオランダのみです。 ドイツU17 : 7.01m(46×14)U15 : 6.10m(40×14) オランダU17 : 7.01m (46×14)U15 2年目 : 6.55 m  (46×15)U15 1年目 : 6.14 m (46×16)(オランダは、U15を更に二つに分ける仕組み) ここからは私の推測なのですが、日本は恐らくオランダ古代の規定をそのまま導入し、それ以降ずっと変更されずに今に至るということなのではないかと考えています。 一方で、フランスやベルギー等では、規定がまた違います。参考まで、現時点でヨーロッパ各国の規定を下記に記載します。 フランス(2021年まで)U17:7.62m(50×14)U15:7.01m(46×14)(私の時代では、U17は7.47m(49×14)だったが、2013年に変更された) ベルギーU17 : 7.32m(48×14)U15 : 6.40m(48×16) スイスU17:6.94m(52×16)U15:6.10m(46×16) イタリアU17:6.94m(52×16)U15:6.20m(52×18) デンマークU17:6.94m(46×14)U15:6.20m(42×14) そもそも、なぜギアを規制しているか? ギア規制が初めて導入されたのは1921年に開催されたスカウティングを目的としたトラック大会だったそうで、100年を超える歴史の長い措置です。当時から、規制の理由としてあげられているのは、「筋力(トルク)を重視した運動は負荷が高いのに対して、柔軟性(ケイデンス)を重視した運動は負荷が低い」という仮説があり、成長期に高い負荷をかけることが成長に影響をもたらすことが懸念されています。 そこから、人類の遺伝的や文化的な変化、機材メーカーの供給やカテゴリー分けの仕組み等に左右されてきましたし、一時期なくなったカテゴリーもありますが、若手選手を怪我や障害から守ること、伸びしろを担保してプロに上がるまでに「燃え尽きてしまう」ことがないようにすることを理由として、ずっと規制が行われてきたのが自転車ロードレース競技の長い歴史のひとつです。 フランス(及びUCI)でギア規制に対する考え方が再検討されている理由 ところが、ロードレース種目とトラック種目では100年以上の歴史のある措置であることに対して、マウンテンバイク、シクロクロスやBMXという、比較的に発展の新しい種目では規制が存在していませんが、特定の影響が観察されたことはなく、科学的な根拠が存在しないということで、近年はUCIをはじめ、ヨーロッパ各国はギア規制に対する考えを再検討しはじめています。連盟専任の医者の依頼のもと、「ギアを規制するより、ディレーラーの正しい使い方を教わった方がいい」という仮説をもとに、フランス自転車競技連盟が2019年にU19の選手6名に対する実験調査を実施したところ、規制されているレース(U19のみの場合)より、規制がされていないレース(大人と混走する場合)の方が、観察された最高ケイデンスが高い、という結果が明かされました。ようするに、ギア規制を設けることはそもそも、高ケイデンスでの運動を促しているわけではない、ということです。 その背景には、フランスは近年、トルク力が重視とされているタイムトライアル種目で世界レベルでの成績が悪かったことがあり、その原因の一つとして、ギア規制が挙げられていたこともあります。また、サッカーをはじめとする他のスポーツに見習い、自転車競技でも近年、ネオプロがプロ契約を結ぶ時期がどんどん若年化していることも注目されています。 この調査を受けて、2020年より、フランス自転車競技連盟の規定上、U19カテゴリーのギアを開放する方針を決めました。国際舞台では、UCIはまだ規定を改めていませんので、今年はフランス代表の選手から矛盾が指摘されることもありましたが、UCIも、U19カテゴリーに関するギア規制を取り下げることを検討していることを明らかにしています。そうなれば、UCIはU19のギア規制しか差がめていないわけですから、UCIの規定上、ギア規制のルールが一切なくなるということになります。 更に、U17カテゴリーに関しても、フランス自転車競技連盟が2021年12月31日をもって、ギア規制を取り下げることを発表しました。もともと、U17カテゴリーへの適応も検討されてはいましたが、コロナ禍で機材を手配するハードルが莫大的に上がったことが転換点だったとされています。今のところ、自転車関係者からは、批判の声が上がってます(FFCを含め、政府や有権団体に対する批判が盛んなのもフランス文化です)が、今年7月に東京オリンピックフランス代表GMとして来日したエマニュエル・ブルネ氏はこう説明しています:「トルク力の向上を目的とする運動は、健康に影響をもたらすどころか、選手の成長の一環として必要不可欠な要素であり、自転車だけではトルク力の強化が不十分であることまで科学的に証明されています」。
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  • 日本の自転車ロードレース界が、なぜ世界から遠ざかっていくようになったのか
    10 September 2021
    2020年2月に、「時代の変わり目」という記事を公開していました。 そのときは、新型コロナウィルスが蔓延する直前で、国内トップリーグの分裂もまだ誰も思いがけていませんでした。日本の自転車競技界は世界に近づいていくのか、それとも悪い方向に交差してしまうのか、両方の可能性がまだ残っていました。 当時は、次のポジティブ要素を注目していました。 ・「五輪に出場するため」の争いが日本のレベルを引き上げてくれていた ・競技状況や力関係の構図が変動する前兆があった ・あくまでもポイント狙いとはいえ、宇都宮ブリッツェンが初めて欧州のレースに出場した ・実業団×学連の二重登録や、念願の新リーグの構造が実現された/される予定だった しかし、「果たしてそれは日本国内の全体レベルの安定的な向上に繋がっていくのか?心配要素も少なくありません」と、次の点を懸念していました: ・JBCFが新リーグの発表を通じて積極的な姿勢を見せつつも、レース数が急減し、理事長の右京氏が組織委員会の仕事と兼務を始めていた ・修善寺CSCが利用できなくなったり、予算縮小でナショナルチームの強化指定選手も半分程度に削減されるなど、政府や連盟から選手育成より東京五輪の短期施策が優先されていた 「果たして「底辺を拡げる」作業をなくしては「上から引っ張る」方法が成り立つのか?明らかに時代の変わり目に立っている中で、いかに2020年以降のことを視野に入れて時代の変遷を迎えるかが、新時代の展望を大きく左右しているでしょう。」と、疑問的な結論を挙げていました。 その時から、2020年と2021年シーズン、二つのシーズンが経過しました。新型コロナウィルスが世界中に蔓延し、東京オリンピックの延期が決まり、トップリーグがJBCFとJCLに分裂するなど、想定外の方向に流れていきましたが、それも含め、間違いなく「時代が変わった」といえると思うので、ここ2年の出来事を踏まえ、現状を分析し、いったん評価を出してみたいと思います。   ①若手を中心に、競技環境が悪化している ・「オリンピック優先」の短期ビジョンで取り組んできた →例年育成の中心となっている修善寺サイクルスポーツセンターがオリンピックの関係で2年間利用不可能になったり、U23以下のナショナルチームの活動予算が削減されたりと、JOCやJCFは将来の可能性を広げるより目の前の結果を求める施策を選択したように伺います。 ・ヨーロッパに比べると、中止された大会の割合が大きく、未だに持続可能な運用方法(ウィズコロナ運用)に至っていない →ヨーロッパ各国の感染状況が日本より何倍も酷かった時期があったにも関わらず、しっかりした施策を講じることで、立ち直りが速く、通常とまでいかないまでも、2020年は育成の基盤となるコアなレースはしっかりと残していましたし、2021年はウィズコロナの運用方式を見つけほとんどの大会を開催できました。一方で、日本では2020年でも通常に戻る場面まであったにもかかわらず、大会の中止が相次ぎ、今でも光が見えない状況が続いています。この状況が続けば続くほど、限られた時間で詰められる経験や、トレーニングの強度の差がより広がっていきます。この差を、この世代の選手がこれから詰めていき、いつかワールドツアーにたどり着けられるとは現実的に考えられないので、数年にわたる世代を犠牲にすることになるといっても過言ではないと思います。 ・U19以下は全日本選手権が2年連続中止に →本日、U19以下の全日本選手権の中止が発表されました。去年に引き続き、2回連続の中止になります。その結果、2003年生まれの選手は全日本選手権の成績を残すことができませんでしたし、2002年と2004年の世代もこの影響を食らっています。一見、全員同じ状況におかれているので不公平はないように見えますが、日本国内で世界的に評価されている唯一の大会ですから、今まで扉を開けてくれていたきっかけを一つの世代が丸々失ったようなものです。 そもそも、大会が少ないなかで、全日本選手権が開催されないことは、モチベーションに大きな影響を与えることもいうまでもありません。   ②業界内のバラつきが酷くなっている 個人的には、日本国内の自転車業界の分散状態を日本と世界の差の根本的な原因と見ています。このたった2年間で、少しずつまとまる傾向にあったその分散状態が恐ろしい勢いで更に広がってしまいました。 ・トップリーグの分裂 →JBCFの中からほとんどの地域密着型プロチームと、起業スポンサー型チームの一部が今までともに盛り上げてきた「Jプロツアー」を離れ、「ジャパンサイクルリーグ」という新しいリーグのもとに終結しました。背景には、ずっと興味深く観察してきた数年前から続いていた価値観と考え方の違いがあります。この状況に対しては個人的な見解があり、今回の記事の趣旨ではないので省略しますが、確実に言えるのは、我々の大好きなスポーツが弱っていた時期に、分裂が起こってしまうことは、双方それぞれがいくら頑張っても、競技レベルの低下につ繋がってしまうことです。 ・衰退傾向にあった伝統や歴史の長い組織や古い価値観が前面に戻った →自転車ロードレースにおいては、日本とヨーロッパは天と地ほどのレベルの差があり、現状を変えていかなければ追いつくこともないことは、誰も否定しない事実です。しかし、コロナ禍を迎てからは、入国制限の関係で外国人選手との接点が突然なくなり、JBCFが「原状回帰」を訴えたり、基盤の丈夫な高体連、学連やJKAなどは既存のサーキットコースを活用して基盤を固めるなどして、結局変わりつつあった自転車ロードレースシーンが過去の状態に引き戻されたように思えます。これは、安定を取り戻したという意味では良いことかもしれませんが、現代の若手選手のニッズや野望に答えられるか、そして世界との差を詰める方向に進んでいくかといえば、疑問が残ります。そして、この中で育ってきた世代の中では、保守的な価値観を養成することにも繋がるのではないかと心配しています。   ③向いている方向は、世界ではない ・世界を見据えるプランの存在が消え去った →2019年3月にJBCFが発表した新リーグの構想は、ツール・ド・フランスを頂点とした世界の仕組みで戦える選手の輩出を最大の目標として掲げており、分裂を予覚していた多少の矛盾はあったものの、それに向かって自転車業界全体を統合させる明確なプランはあった。しかし、現実に引き戻されたのか、その当時の方向からは大きく逸れてしまい、原状回帰を掲げる保守派と国内の興行的なプロ化を目指す改革派の二極に分かれる始末。その結果、どちらからも世界に繋がる現実的なビジョンが示されておらず、世界が更に遠ざかってしまったように見えます。   そして、定期的に浮き上がってくる「世界を目指さなくてもいいのでは?」という議論。 最終的にJリーグを成功に導いたのは、ワールドカップで活躍する日本ナショナルチームでした。日本国民が期待しているのは、世界で戦う日本人の出現です。この挑戦を途中で諦めてしまうのでは、自転車ロードレース界で努力を重ねている選手、関係者、ファンなど、全てを否定することになってしまいます。世界のトップを頂点に据えなければ、誰もついてきませんし、世界が届きそうになってはじめて、一気に盛り上がるのが全ての競技スポーツの現実です。誰もが諦めそうになったときに、世界を掴むことに成功した若者こそ、次世代の大スターになるに違いない。今、苦しい時期を迎えているからこそ、若手選手には、必死に世界を目指し続けてほしいし、それを支える全ての関係者には、それに応えられるように、一層意識を高めてほしい。
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  • なぜ「FTP」を使わないことをおススメしているのか
    26 January 2021
    この記事にたどり着いた多くのサイクリストの常識を裏返す理論になることは承知の上ですが、あえて結論から申し上げます:自転車ロードレースのトレーニングにおいて、多くのサイクリストに「FTP」の概念から身を引くことをオススメしています。 この結論はあくまでも私個人の意見でしかありませんし、「FTP」のコンセプト自体を否定しているわけではありませんので、ご安心ください。皆さんが今まで身についてきたトレーニングの概念が、間違っているわけではありません。 しかし、この論点は誰もが納得できる複数の明確な理由に基づけられていることを知って頂きたいです。 母国フランスでは、「FTP」はほとんど使われていないので、トレーニング法を専門に自転車競技に取り組んできた身として、むしろフランスとの関係が深い日本では絶対的な基準値として「FTP」がここまで普及しておりフランス発祥のトレーニング法が全く日本市場に入り込んでいない状態が不思議でなりません。 まずは現在のトレーニング理論が確立されるまでの流れを振り返って、少しずつ論点を説明していければと思います。   ❶ 歴史:「伝統」が「トレーニング理論」として確立されてきたプロセス ここ数年の日本では、国際化やパワーメーターの普及等によって、自転車ロードレースのトレーニングに関する情報を手に入れる機会が増えたと思います。自分は、日本に来て5年しか経っていませんので、身に染みて当事者として体験してきたわけではありませんが、指導者と若手選手に大きな差を感じることがあり、20年前とは環境が大きく変わったと推測しています。 更に、近年はトレーニングプログラムが組み込まれている「ズイフト」の爆発的な普及による影響もあり、数値化されたトレーニング方法は一般サイクリストにまで広がり、常識として定着してきているように感じています。 これは、「SFR」、「LSD」、「SST」、「TSS」や「FTP」など、様々な用語が会話やSNS等で流れるようになったことを見れば明らかでしょう。 自分が生まれ育ったフランスでも、過去20年でトレーニングに対するアプローチが大きく変わりました。昔、自転車特有の「伝統」として口コミで伝達されていた「教義」のようなものが、数値化が進むことによって、科学的な土台ができ、それが現在の「トレーニング理論」に繋がっています。 しかし、日本の場合は「伝統」がないと言わないまでも、この伝統は他所から導入されて現在定着しているトレーニング法とは全く異なっているものであり、繋がっていません。   ❷ 世界に共存している、二つのアプローチ 勿論、世界中同じ人間ですし、この人間の体のことですから、どのアプローチであっても、正しければ基本的な原理が異なるはずはありません。しかし、この数値化のプロセスが世界中一斉に行われたわけではなく、様々なアプローチが平行して普及しました。今に至っても、主に2つのアプローチが共存しています:ヨーロッパから発祥したアプローチとUSAから発祥したアプローチの2つです。 「グラップ流」=基準はMAP トレーニング法の全てを左右するのは、強度ゾーンの設定方法です。強度ゾーンは具体的な代謝の変化(有酸素性、無酸素性、非乳酸性等)の存在に基づけられ、実質的に人類共通の概念ですが、運動に対してどのようにアプローチするか(どこを重視するか)によって、この設定が微妙に違うこともありますし、それをどう測定してスムーズに日々のトレーニングに活用していくかというところで大きな違いが生まれます。 「強度ゾーン」の概念は、感覚ベースで昔からなんとなく存在していましたが、それを明確なスケールにまとめ、測定したデータをもとにトレーニングプランを作ることにきっかけとなったのは当時フランス自転車競技連盟のパフォーマンスマネージャーを務めていたFrédéric Grappe(フレデリック・グラップ)の「ESIEスケール」(échelle d’Estimation Subjective de l’Intensité d’Effort・直訳:強度の主観的算定スケール、1999)。日本でも使われている強度ゾーンとはほとんど変わらず、i1(intensité 1)からi7(intensité 7)、7つのゾーンを設定しています。 このスケールは、1.感覚に基づく具体的な基準(難なく会話できること、脚が痛み始める等)、2.心拍数に基づく基準、3.パワーに基づく基準の3つをすり合わせていますが、③パワーゾーンに関しましては、「PMA」(=MAP(Maximum Aerobic Power)、Vo2max時に維持できるパワー値)を基準としています。 グラップ氏の中心的作品は「Cyclisme et optimisation de la performance」(2005)。現在は、Groupama – FDJのヘッドコーチを務めています。 B.「コガン流」=基準はFTP ほぼ同時に強度ゾーンの設定方法をリリースしたのが、アメリカのAndrew Coggan(アンドリュー・コーガン)です。これは、日本で幅広く使われている強度ゾーンで、初めて公開されたのは2001年です。しかし、この時点ではグラップ氏の「ESIEスケール」は既にヨーロッパで広く使われはじめており、ほとんど同じ区分をしています。主な違いとしましては、パワーゾーンの基準値は「MAP」ではなく「FTP」が使われており、従って計算方法も異なります。パワーゾーンの設定というよりも、コガン氏の主な貢献は、ウォークアウトの平等な評価基準となる「Normalized power」(NP)や、疲労を数値化できる「TSS」などといった様々な付加価値です。これは、Hunter Allen(ハンター・アレン)と共に出版された「Training and Racing with a Power Meter」(2006)の中に公開されたものです(日本では「パワー・トレーニング・バイブル」と翻訳されています…他に立派なトレーニング法もあるという上記の理由を踏まえて、これは非常に悪い翻訳だと、個人的に思いますが)。   ❸ 日本では、ヨーロッパと違うアプローチが定着しました 両者の原始的作品が出版された頃(それぞれ2005年と2006年)から15年が経ちました。この15年ではそれぞれのアプローチが世界中に広がり、それぞれ標準化してきたわけですが、明確に分離しています。最初にあった「グラップ流」は、発祥の地フランスからラテン圏ヨーロッパに広がり、イタリア、スペイン、ベルギー(主にフランス語圏)、コロンビア等比較的に自転車競技の歴史が長い国に普及していきました。一方で、「コガン流」はアメリカから英語圏に広がり、イギリス、オーストラリア、アメリカ、そして日本を含む諸外国等比較的に自転車競技が新しい国に普及していきました。 しかし、日本では、日本一流の指導者でさえ大半はヨーロッパのトレーニング法は自分たちが学んだものと違うことを知らないぐらい、「コガン流」が市場を占めている状態で、不思議なことに「ヨーロッパ流」は未だに全く日本に入り込んでいないどころか、上記のような経緯があって他のアプローチが存在していることさえ知られていない状態です。 本来の理由としては、細かいようですが、主な原因が翻訳の関係にあると思われます。アレン氏が創業した「Peaks Coaching Group」の日本支社ができ、「Training and Racing with a Power Meter」が日本語に翻訳されたことがきっかけで、リソースが増えていきました。もう一つの理由は、近年はズイフトが爆発的に発展したことも触れたと思いますが、ズイフトはアメリカの企業で、コガン氏の基準をもとに開発されているので、英語で得られる情報の量が圧倒的に多いこともあり、英語圏のトレーニング法に沿って行く流れが自然とできていったのではないかと思います。   ❹ しかし、なぜ日本でヨーロッパ流(FTPよりMAP)をもっと普及させるべきか 両方とも、立派なトレーニング法として成立していますし、現時点ではどちらも多くのワールドツアーチームで実践されているので、どちらが上かという話ではありません。基本的な原理が同じなので、原理的な部分(人間生理学)と独断的な部分(水準や測定基準等)さえ正しく区別できれば、選手の活動に何の影響もありません。しかし、実際には基準値の向上が目的になってしまうケースが多いこともあり、どの基準値を使うかが選手のパフォーマンスに反映されることは事実でしょう。 近年のツール・ド・フランスでは「コガン流」を実践しているチームが連勝している事実もあるので、改めて申し上げますが、「コガン流」を否定する論点ではありません。しかしそれでも、日本ではヨーロッパ流をもっと導入すべきではないかと考えている理由をご説明します。   ①まず、「FTP」は1時間維持できるパワー値と言われていますが、実際に1時間同じパワー値を出すロードレースは日本で実際にほとんど存在していません。日本の場合は短い周回ばかりで、タイムトライアルでさえ1時間走り続けるほど長い大会は一つもありません。従って、走行環境やレースの形態が大きく異なるアメリカやオーストラリア等では参考にしやすい数値でも、日本という環境においては、現実味を欠いている概念です。(例外としては、ヒルクライムに特化している選手、ズイフトで活躍したい選手やトライアスリートを挙げられますが) 主な理由としましては、本来自転車ロードレースのためではなく、アメリカではメージャーなトライアスロン競技も含め浅く広く活用できるように定められた数値です。   ②そして、1時間最大の出力をテストで測定するハードルは非常に高いですから、「FTP」の計測方法の9割以上は間接的測定です。直接的に測れる水準はいくらでも選べるし、一番普及しているFTPの計測方法である20分走から95%、97%、または100%(20分走そのまま)の数値を使うコーチもいるので、非常に分かりにくい基準といえるのではないでしょうか。また、20分維持できる強度と1時間維持できる強度の落差には大きな個人差(脚質、練習歴、レベル等)があるので、その時点で「1時間維持できる強度」として一斉に定義できなくなりますよね。 ましては、もう一つの人気計測方法である「ランプテスト」は「MAP」の測定テストなわけですから(ちなみに、これもグラップ氏による発明)、FTPを直接的に病院で測定する場合を除き、そのままMAPの数値を基準に使った方が詳しい設定ができるでしょう。どうせ間接的な計測方法は後付で開発されたわけですから。   ③もう一つの理由は、日本の走行環境とレースシーンの特徴です。フィジカル面ではVo2max領域で勝負が決まるレースが大半なので、具体性をもたらすためには自分のパフォーマンスの基準として活用すべきなのはMAPではないかと思います。MAPの基本的な測定方法はランプテスト(最も詳しい)と5分走(最も実施しやすい)なので、日々のトレーニングの中でも計測しやすいです。また、インターバルトレーニングの大半はVo2max(L5)領域なので、MAPを標準値として使った方が分かりやすいのではないでしょうか。   ④そして、③に結びついてきますが、何よりもご理解頂きたいのは「FTP」は有酸素性作業代謝(L4)が中心となる数値なのに対して、「MAP」は無酸素性作業代謝(L5)が中心となる数値なので、求められる能力が異なります。前者を得意とする選手はクライマーやルーラーといった脚質ですが、後者を得意とする選手はパンチャーやスプリンターに相当する選手だったりするので、FTPが得意/不得意というだけでパフォーマンス面で特別な意味があるとは限りません。あくまでも基準値ですから、「FTP」と同じように「MAP」の単なる向上が目的化してはいけないと思いますが、万が一そうなったとしても、その中でMAPを向上させた方が直接パフォーマンスに響きますし、L5は疲労を抑えつつ最もコンディションが上がりやすい領域でもあるので、オーバートレニングになりにくいといったメリットもあります。   ⑤また、もしもフランス、イタリアやスペインなどラテン圏ヨーロッパで活動しようと思う選手であれば、コガン流のトレーニング法の知識があることは大きなプラスになるのは間違いありませんが、実際「グラップ流」が主に基準化しているので、回りの選手や指導者に学ぶには、上記説明してきた基本的な概念と違いを把握する必要があるでしょう。現時点で海外で活動している日本人選手の8割ぐらいは、それに相当すると思います。   「FTP」がいいのか、「MAP」がいいのかの議論は別として(20分走の数値を使うなど、他に方法もあります)、とにかくあくまでも基準値(人間が勝手に決めた水準)でしかないことをご理解頂き、他に方法があること、そしてその中でもしかしたら自分のトレーニングの場合にはFTPを活用するのは最善策ではなかったりすることをご理解頂けたでしょうか。きっと興味深いご意見をお持ちの方もいると思いますし、中にはどうしても「FTP」強く推薦する方もいらっしゃると思うので、皆さんのお考えや質問などをお聞かせ頂けたらと思います!
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  • 冬期のトレーニングについて
    29 December 2020
    自転車ロードレース選手にとって、冬は特別な時期です。シーズンが終わり、次のシーズンに向けての準備期間とも言われていますが、実は、冬のトレーニングで春から始まるシーズンの実績が決まると言っても過言ではないぐらい、非常に重要な期間です。 活動しているうちに、私が生まれ育ったフランス、そして生活している日本では、冬のトレーニングの認識と、付き合い方が大きく違うことに気が付きました。歴史の流れや競技環境からどのように違うのか、そして日本人選手の強化を進めるためにいくつかの点について認識と習慣を見直すことで大きく改善できると考えられるのかについて述べていきます。 「シーズン」のコンセプトの違い フランスは100年以上の長い歴史を経て、自転車ロードレースのシーズンが2月から始まり、10月に終わるという今の仕組みに至るわけですが、なぜこのような「シーズン」のコンセプトが定着したのか考えたことはありますか?日本では、「シーズン」のコンセプトが薄く、外部的な要素に合わせた形で流動的なスケジュールで構成されることが多いです。高体連/学連は学校のスケジュールに合わせて年度ベースで構成されていますし、市民レースも一般市場の需要に伴って秋や冬こそ多くの有名な大会が開催されます。 この流れは、天候やスケジュールの関係(冬は晴れが多く、時間も作りやすい)が根本にあり、特に良いことでもなければ悪いことでもないでしょう。 しかし、長い歴史を「シーズン」のコンセプトが生まれたのは、天候の違い(ヨーロッパの冬は寒く、降水量が多い)の関係だけではなく、実はトレーニングの概念に基づいている理由が最も大きいです。気候の悪い期間を外したシーズン日程を定めることによって、「オフシーズン」を取ることができ、①シーズン中の高い負荷から回復し、②来る次シーズンに向けて更なる強化を図ることができます。この2点は、先ほど「春から始まるシーズンの実績が決まると言っても過言ではない」と示していた要素で、その重要性について細かく説明したいと思います。 「オフシーズン」:休養を取ることの重要性 これは「超回復」というトレーニング理論の根本にある現象を大規模(シーズン単位)に適用するという考えです。 「超回復」という現象は、一定の負荷から回復したあと、パフォーマンスが元より少し高い状態になるという、シンプルにトレーニングの「効果」を生み出すためのプロセスを示します。 日々のトレーニングで負荷を掛けたあと、適切な回復を取らないと疲労が溜まり効果が生まれないのと同じように、いちシーズンに区切りをつけて、深いところまで回復しないと、疲労が付いた状態でシーズンを迎え、早い段階でオーバートレーニングになってしまうリスクがあります。 「オーバートレーニング」というのは、「トレーニングの量が多すぎる」ことを示すと一般的に思われがちですが、これは間違いです。練習量が多すぎるというよりかは、回復が足りない現象を示します。要するに、トレーニング量が大して多くなくても、適切な休養を取らない限りは「オーバートレーニング」になる可能性があり、その状態が最も判明しづらいため、原因が見つからず長引く可能性が高いです。こうやって、モチベーションが高いがために十分な休養を取らず大切な一年を棒に振ってしまう選手が非常に多いです。 「ベース作り」:シーズンを通してのパフォーマンスと長期的な成長を左右する重要な作業 オフシーズンを設けるメリットは十分な休養と回復を保証することだけではなく、レースが連続する時期に取り組むことのできない「ベース作り」作業を着実に積んでいく目的もあるのです。家を建てる際に丈夫な基礎を最初に築くところから始めなければ大きな建築物が建てられないのと同じように、パフォーマンスを最大限に引き伸ばすためにはしっかりとした基礎練習に取り組む必要があります。日本のプロ選手の中でも、この「ベース作り」にどのような意味が困れているのか、正確に理解していない選手が多いので、簡単な言葉で説明してみたいと思います。 「ベース作り」は総合的な身体作りを進めるための基礎トレーニングのことを示しますが、心肺機能の観点に絞って申し上げると、多くの読者が既にご存じの通り「LSD」(Long Slow Distance)のトレーニングが中心になります。名の通り、低強度で距離を乗るトレーニングですが、持久力の強化を目指すトレーニングだと勘違いしている方が多いです。間接的な効果の一つであるのは確かですが、LSDの主な目的は「心肺能力の基礎強化」です。 心臓は、血液を送る役目を担う非常に大切な筋肉です。この血液は体中に酸素を運ぶので、(筋肉として)心臓の機能次第で、「最大酸素摂取量」(いわゆるVO2max)をはじめ、パフォーマンスが大きく左右されます。 筋肉ですから、この機能に関わるのは①鼓動の度に送られる血液の量を増やせるか(心臓の発達)、そして②血液が送られるスピードをいかに高められるか(心臓の強化)という、二つの要素が絡んできます。簡単に申し上げますと、心肺能力の観点から言えば①(心臓の発達)は「ベース作り」の目的、そして②(心臓の強化)は高強度トレーニングの目的に相当します。鼓動の度に送られる血液の量を増やすことによって、平常時の心拍数が下がり、心肺機能が高まるので、持久力の向上もそうですが、回復力の向上、よってはパフォーマンスの安定性やトレーニングの効果の向上にも大きく繋がります。そのため、シーズンを始める前(強度を上げる前)にこなしておくことが理想です。 これで、LSDトレーニングの目的をご理解頂けたと思いますが、理論に留まらず競技シーズンの環境に置き換えて具体的に考えてみましょう。LSDトレーニングの細かい部分は省略しますが、基本的にはL2強度(最高心拍数の70~85%)を繰り返し長時間維持するトレーニングです。「疲労=強度×時間」なので、LSD以外にも強度を上げれば疲労が爆発的に増え目的から逸れてきますし、強度を上げずに時間だけ増やせば疲労は溜まるけどコンディションは上がっていかないとういう状況になります。そのため、シーズン中(レースが続いている期間)は「ベース作り作業」ができず、効率よく行うためには「オフシーズン」が欠かせないということです。 まとめ 学年度に沿う高体連や学連の競技スケジュールや、民間が競技環境を支えていることもあり、日本では「オフシーズン」の概念が統一されておらず、その必要性を深く考えず何となく付き合っている選手が多い気がします。ホビースポーツやスポーツビジネスの観点では、年間を通して競技スケジュールが充実していることはプラスになるでしょう。しかし、競技の観点では、正しいトレーニング理論に基づいて、若いころから選手の「育成」と「強化」を前提としている環境が求められます。 生理学の観点では、冬期のトレーニングとの付き合い方は見え隠れしている日本と欧州の差の一つの原因ではないかと考えています。果たして、日本ではオフシーズンとベース作り作業を正確に理解している指導者がどれぐらいいるのでしょうか。
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  • オンラインサイクリングの限界
    24 April 2020
    新型コロナウィルスの世界的な感染拡大が続く中、Zwiftはじめ室内でトレーニングできるツールとしてオンラインサイクリングのブームが見られます。それまでも、固定ローラーもスマートトレーナーも普及していましたし、オンラインサイクリング機能アプリも既に存在していましたが、最近は社会交流が見直されている中で、そういったツールを活用した新なビジネスが幅広く展開されています。 自分も、子供の頃から現役まで固定ローラーを日常的に活用していましたし、今でもフランス自転車競技連盟と手を組んでいる大手メーカーの「Saris」と新たな事業展開を準備している最中ですが、最近はオンラインサイクリングの将来性について様々な記事やコメントを目にする機会が多く、サイクルスポーツの将来に対して不安要素も目に浮かんできているので、一歩引いた視点から方向性を考える必要なのではないかと考えています。 ヨーロッパでは、根が深い自転車ロードレース文化を支えている各ワールツアーレース主催者の中には、少しでも露出機会を設け、継続につなげるということで、中止になった大会のオンラインバージョンを代わりに開催している事例が複数ありました。現在、「ディジタルスイス5」というツール・ド・スイスのオンラインレースが行われていますが、第1ステージはロハン・デニス(現TT世界チャンピオン)が優勝し、第2ステージはステファン・クング(現TTスイスチャンピオン(3連覇)、元個人パーシュートやチームTT世界チャンピオン)が勝利したと、結果は明らかにFTPの高い順です。 ロードレースのトレーニング文化が昔から普及しているヨーロッパでは、オンラインレースに参戦すればロードレースに代わるトレーニングができると誰も思っていないので、新型コロナの感染拡大が収束したとたんに、オンラインサイクリングは単なる道具に戻るに違いありません。 しかし、日本では状況が違います。歴史や文化の違いから、メージャースポーツとして普及していないロード(公道)レース文化が薄いため、より適性の高いオンラインサイクリングが継続的に全面に出る可能性が高いです。ロードレースでいう走行環境やビジネスモデルで不足している部分を、オンラインであれば補えるということで、少しずつオンラインに置き換かえるべきではないか、という意見を目にすることが多くなりました。実際にサイクルスポーツのリアルとオンライン競技の力関係のバランスが既に変わっており、ハードルの高いロードレースからハードルの低いオンラインサイクリングに移行しつつあります。 確かに、投資が続けていけば、機材や技術の進化を経て、将来は実走に近い感覚まで再現できることは予想できますが、現段階では全く別物で、物理的な限界もあり、世界的にサイクルスポーツの基盤を支えている「移動・健康・環境」にはいくら頑張っても手は届きません。室内ではエンデュランススポーツに求められている心肺機能の発達(いわゆるベースづくり)はできないし、ケイデンスとトルクが同時にあがる高スピード域の追い込みもできないし、ペダリングの動きまで異なることも科学的に証明されています。そもそも、社会的な違い(就労時間が長く、日の入りが早い)から室内トレーニングが多いことと、ロードレースシーンが違う(ヒルクライム、トラック、クリテリウム、周回コースと普及している種目には持久力が問われない)ことが、ロードレース競技において世界と差が大きい原因になっているので、その差がさらに開いていくことが予想できてしまいます。 ロードレースのトレーニングとして室内練習を取り入れている方に、次のポイントを再意識して頂く必要があると思います。 ■ロードレースで強くなっていくためには、心肺のキャパシティー(容量)を最初に伸ばしていく必要があります。固定ローラーでは、短時間高強度や専門的なメニューが中心になり、心肺の動力性能(仕事率)のみが鍛えられるため、計測できる数値は高いものの、回復力、持久力や耐力が低く、本格的なのロードレースでは通用しません。 実はプロ選手含め、日本のほとんどの選手はその状態です。それは、環境の違いが主な原因であり、更に短時間型のトレーニングが中心となるオンラインサイクリングでは、全体的にその傾向が増す恐れがあり、日本と世界の差がさらに開く可能性があります。 オンラインサイクリングにハマっている一般レーサーと、ビジネス展開の一環としてその需要を意識的に養成している企業の立場からすれば、チャンスに見えますが、一方でサイクルスポーツをメージャーにしていくのであれば、様々な注意点もあるように感じています。オンラインサイクリングの展開は、あくまでも別競技という認識がある中で、両スポーツが相乗効果を出して平行して発展していくのか、ロードレース業界自体がオンラインサイクリングに移行していくのかでこれからのサイクルスポーツの普及状況が全く違います。そのため、共通点を活用すべきなのは間違いありませんが、まずは夢と現実の世界をはっきり分ける必要があると感じています。
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  • 世界で戦えるプロ選手になりたい高校生へのメッセージ
    12 April 2020
    「ヨーロッパでプロ選手になりたいですが、どうすればいいですか?」と、毎年、何十人の若手選手から問い合わせを頂いています。日本に来てから問い合わせが続いているので、当初アドバイスを提供させていただいた高校生に関しては、今はどういう進路を選んで、実際にどういう結末になったかもはっきり把握できていて、日本国内における選手育成の大失敗を、何もできずに見送っていることになってしまっている自分がいます。 はっきり言わせて頂くと、本当に絶望するほど、高校生の皆さんが同じ悩みを持っていて、同じ選択肢を選んで、同じ失敗を繰り返しています。それを見渡している自分は痛いほど悔しくて、今の原動力の一つになっています。 自分の身の回りでは、間違っている認識が常識化してしまっていて、指導者も選手も偏っている方向に向かっている状況を良く目にしているので、その間違っている認識を、このブログを通じて、少しでも改善させることに貢献できればと思います。 1.「若い頃からヨーロッパに行かないとプロ選手になれない」 「プロ選手」をニッポ絡み以外のプロコンチネンタル登録以上のチームと契約をした選手に定義すると、今の成功事例の中では、ほとんどの選手が若い頃からヨーロッパの道を辿った事実が否めません。だからと言って、プロ選手になるには、ヨーロッパに行くのが早ければ早いほどいいとは限りません。ジュニアカテゴリー以前でヨーロッパへ行けるには、学校を捨てなければならない場合がほとんどで、プロ選手になれないという最も可能性の高い将来を犠牲にすることになってしまうので、非常に慎重に選択すべきです。ヨーロッパへ行くのは、最終的には必要になりますが、結局ヨーロッパへ行って壁にぶつかって日本に帰ってくる選手が95%を占めているわけで、なぜそうなったのかを考えると、ヨーロッパの経験を得にできる最低限のレベルを足していなかったからがほとんどです。 どういうことかといいますと、ヨーロッパのホビーレースを走るようでは日本のトップレースをの方は強い選手と一緒に走れるわけで、ヨーロッパへ行く意味がなくなります。そして、最低限の語学だって日本国内でも勉強できるし、良い指導者さえいれば最低限の走り方や実力も身に着けられるはずです。 ヨーロッパの育成モデルは、「順番に段階を踏む」コンセプトなわけで、段階を飛ばしてでもヨーロッパへ行くようでは、まったく何の意味もありません。 2.「大学にいけばプロになれない」 有名な指導者からとある選手が休学させられたり、進学を諦めさせられたりしている話を、残念ながらよく耳にしています。それは、非常に無責任な行為だと思います。プロ選手になる可能性が非常に低いわけで、大学を卒業した方はよっぽど可能性の広い未来を迎えられることは間違いありませんので、本来は若手選手の教育を考えることこそ指導者の責任です。 自分が親しいフランスの育成組織で例えると、AG2R la Mondialeのu23下部組織であるChambéry Cyclisme Formation(シャンベリー・シクリスム・フォーマション)の選手は去年、92%の卒業率で、毎年100%に近い卒業率を誇っています。そもそも、進学していないと所属できないわけで、外国人選手は言語学校に通わせられています。よく語っていますが、ロマン・バルデ選手ですら、大学院を卒業した年にツール・ド・フランスで3位に入っています。 進学することで、ヨーロッパに適応するためのオープンマインドや社会性、コミュニケーション能力、時間の有効的な使い方が学べる最高の機会でもあるわけで、逆にプラスになる経験値が多いでしょう。 3.「日本の大学に進学してもプロになれる」 だからと言って、進学するのがプロになるための道筋というわけでもありません。ヨーロッパの大学は、期末試験のある5月下旬から10月まで夏休みで授業がないし、それ以外の時間では、強化指定選手なら時間割が好きに組めたり、出席義務が免除になったりします。また、フランスの場合は学費は年間10万程度しかかかりませんし、いつでも専攻や大学を転学できます。 そして、日本は学連というのがあります。去年からは、実業団と学連が両立できるようになりましたので、大学生選手にとっては競技環境が非常に良くなりましたが、いまだに矛盾しているところが残っています。まず、インカレと全日本学生以外の大会は距離が非常に短く、走り方はヨーロッパのロードレースと全く違うので、練習や経験になるかどうかは微妙なとこるです。同様経験の少ない大学生を相手にしているので、チームプレイ、走行技術、位置取りや走り方等を回りの選手から学ぶことはできません。そして夏休み期間中にインカレがあり、合宿がずっと続いたりしているので、ヨーロッパ遠征に行ける機会もそうは多くありません。さらに、インカレを優勝したとしても、世界からみたときは何の価値もないので、実績にもなりません。学連を走る場合は、その辺りの自覚が必要で、世界的なプロ選手になる面では、実業団と合わせて競技日数が増やせることと、学費が免除して頂けることが、唯一のメリットでしょう。 進学すべきなのか?しないべきなのか?というのは、ケースバイケースの問題で、条件がそろえば、いずれも不可能ではないでしょう。但し、ほとんどの場合は、進学をした選手の方は明るい将来が待っている場合がほとんどなのも事実です。 4.「UCI登録チームに所属して、格の高いレースを走ればいい」 世界で走れるプロ選手になりたいという意向があれば、アジアのUCIチームへの所属は強く諫めます。なぜなら、国際的にはUCI登録選手はプロ選手という解釈があり、プロの大会に出場できるようになりますが、UCIアジアツアーで勝ちまくってもレベルやレースの質が違いすぎてヨーロッパのプロチームは参考にすらしてくれないし、日本の大学生選手、又は大学卒業生選手にはUCIヨーロッパツアーで上位に入るための知識や技術が身に付けられる場がないので、夢のような世界です。要するに、ヨーロッパのプロチームがスカウトしているヨーロッパのアマチュア大会に出場権を失ってしまうので、実質世界への扉を自らが占めるようなものです。 具体的に例えると、ニッポの日本人選手は(ヨーロッパ経由で入団した別府選手を除いて)ほぼ全員、UCIアジアツアーの大会でしか実績が作れず、ヨーロッパツアーでは完走がやっとの世界で、その多くが日本に帰ってくることは、同様の原因です。はっきり言ってしまえば、このシステムを導入した人たちは、プロになるための正しいパイプを現時点ではまだ作れていない(順番を守っていない)ということでしょう。 5.「日本ナショナルチームで海外の経験を積めばいい」 これも大きな勘違いです。ナショナルチームというのは、経験を積むための場ではなく、実績を作るための場です。要するに、個人として、あるいはチームの一員として勝負に絡めることができない選手には、そもそもネイションズカップの出場資格がないわけで、それが可能になっているのは、たまたま日本で強い選手が揃わないからです。極端に言えば、完走もできないネイションズカップに出場する唯一のメリットは、いくら日本で優勝していても世界の中では自分がいかに弱いかを選手に自覚させることだけで、そう考えると、その前の段階である各国のトップ大会で勝負をする経験の方は時間が有効的に使えると考えられます。 なぜなら、ネイションズカップを走っているヨーロッパの選手たちは、年間50レース以上を走っていて、その激しい争いの中でそれぞれのナショナルチームに選抜されている選手なので、県大会、地方大会、インターハイ、全日本選手権、国体だけの、年間10レースにも達していない日本人選手とは経験値やレース強度の次元が違います。 逆に言うと、ネイションズカップで上位の実績が作れていれば、ヨーロッパでは大きく評価されるので、それができるための経験値と実力を、まずつけていきましょう。   最後になりますが、日本からワールドツアーに繋がる道が存在していないことがそもそもの原因で、それは今の世代の選手の責任ではなく、前の世代の選手であった今の世代の指導者の責任であって、指導者より若手選手の方が正しい場合を良く目にしてきました。しかし、今の世代の選手が、次の世代の責任者として活躍してくれないと、いつまでもこの悪循環が続きます。日本から世界で輝くプロ選手になることの価値が非常に高く、それに見合った反省と工夫の繰り返しの末にあるので、前の世代の失敗事例をスマートに分析した上で、全力で挑戦して頂きたいところです。
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