JCLの挑戦:疑問があっても、応援すべき理由
JCLの挑戦:疑問があっても、応援すべき理由

JCLの挑戦:疑問があっても、応援すべき理由

JCLチェアマンを務める右京氏と、名誉顧問に就任した川淵氏 ⒸJCL

本日の16:00から、昨年実業団から分裂し発足した地域密着型リーグ「ジャパンサイクルリーグ」(JCL)のシーズン開幕報告会が東京都千代田区にて開催されます(こちらにて、ライブ配信が観覧できるようなので、興味のある方は是非覗いてみてください)。

「JCL」の取り組みを特に注目している理由について、こちらこちらの連載記事で説明しています。

一方で、数日前に目を引いた投稿を共有させて頂きたいと思います。完全公開の投稿ではないので、あえてこちらでは投稿者の身分について言及しませんが、今まで立派に世界基準にこだわり続けた、とても尊敬している先人のお言葉です。

絶対的な応援に踏み出しきれない私の複雑な気持ちを正確に表現してくださっていると思いましたので、議論を少し膨らませてみようと思いました。

記事を最後まで読まない方もいらっしゃると思うので、前置きとして結論から述べておくと、複雑な気持ちではあるのも事実ですが、私はそれでも「JCL」の挑戦を全力で応援すべきだと考えています。どうして複雑な気持ちでいるか、どうしてそれでも応援すべきだと思っているかについて述べていきます。

分裂から始まった「JCL」は、「馬鹿じゃないか」と言われながらも目標に向かって突き進み続けた結果プロ化を見事に実現した「Jリーグ」の成功事例にインスピレーションを受け、当面批判を浴びることを承知の上、強い覚悟をもって水面下で取り組んできたのではないかと思います。まず、中身はともかく、そんな中で目標に向かって踏み切った初代の方々に敬意の気持ちを表したいと思います。

しかしここ数日、Jリーグを成功に導いた当事者の川淵三郎氏ご本人がJCLの名誉顧問に加わることが発表されたこともあり、いい加減力を合わせて夢の実現に向けて力を合わせていきましょうよというような感じで、調和を呼び掛ける投稿も目に入るようになるなど、表立って動くようになってきました。

(JCLを率いているチーム、宇都宮ブリッツェンのメカニック、曽我部正道さんのツイート)

(那須ブラーゼンのゼネラルマネージャー、岩井航太さんのツイート)

「JCL」が身を入れて立ち向かっている挑戦は、日本の自転車ロードレースをメージャースポーツに引き上げること、そして世界三番のスポーツイベント「ツール・ド・フランス」で勝負できる日本人選手を生み出せるようになること。夢溢れるこの目標に反対する者はいないと思います。しかし、1年経過して、JCLの目指す姿とやり方が明確になって、実を結び始めている今でも、業界の中では上記のように、応援に踏み切れないプレイヤーがまだ多いことも事実ですが、当然力を合わせて共に進んだ方がいいとは双方思っているはずですから、それぞれの主張が噛み合っていないような印象を受けることが多いです

その中で、ヒントになれたらと思い、単なる個人の見解に過ぎませんが、感じている疑問点に簡単に触れてみようと思います。

JCLの理念について、異論は全くありません。疑問があるのは、それを成し遂げるために提示され続けている方法(ロードマップ)についてです。なぜなら、手段と目標が根本的に矛盾しているところがあるのではないか、と考えているからです。

一言で表現すると、

「例え本当に国内でプロとして競技に打ち込める環境整備が成功したとしても。選手がわざわざ居心地の良い環境を去る理由を無くしてしまうだけなのでは?」

と考えてしまうところになります。

つまり、今提示されているロードマップの内容だけでは、国内でプロを成立させるという中間目標と、世界で通用する選手をシステマティックに輩出する最終目標が繋がってくる将来像が私には見出せないということです。

サッカーやバスケが成功したのは理解していますが、サッカーやバスケの場合、国際競技連合の傘下に国内プロリーグは世界のどこにも存在していました。それはそれで立派ですが、強いていえば川淵氏率いる当時の先人たちは日本のやり方でそれを真似した「だけ」です。

自転車ロードレースの場合、国単位のプロリーグはどこにも存在しておらず、プロを管理しているのは国際競技連合(UCI)そのもので、それ自体が国際基準になっています。UCIが各NF(各国の競技連盟)に提示している役割は、プロリーグを構築することではなく(UCIの役割ですから)、育成の仕組みを整えることです。逆にUCI抜きのプロリーグを立ち上げるとなれば、対立構図になるわけですから、「国内プロリーグ」というJCLの立ち位置と、「3.世界基準となるチームや選手の輩出」といったJCLが掲げる理念のひとつが矛盾してしまうことを、ご理解頂けるのでしょうか。

選手育成を後付けで成立させる(リーグ内で強くなってから、国際基準に適応する作業に取り組む)ということであれば、現状と何が変わるか、私には良く分かりません。

そのため、収益化に関する課題もいうまでもなく、最後までサッカーやバスケと同じやり方で取り組んでも不十分なので、全く新しいモデルを創り出す必要があるため、はるかに難しいことになりますし、私の経験や知識だけでは実現可能なモデルが浮かばないので、必然的に観客的な立場になります。

はるかに難しいことだけど、現場で試行錯誤を繰り返しているJCLの中では、その意識は育ってきているように感じていて、当初のビジョンに固まってしまうのではなく、課題に相応した施策を柔軟に取り入れていく姿も見せています。これは本当に立派なことで、是非とも期待していきたいと思っています。

プロの定義、世界に繋がる育成の流れに関する課題を解決させるためには、UCIとの連携の強化、世界基準を正しく取り入れた育成環境構築への投資が不可欠なステップになってくると思いますし、これは5年、10年だけでは済まない、というのが現実的なところではないでしょうか。10年後ということで現実味のない「ツールの夢」を売り続けていくことになるでしょうし、プロの定義をはじめ若干嘘っぽい場面もあるでしょうから、暫くは一部から批判を浴び続けることは仕方ないことだと思います。

でも、JCLの短い歴史ではありますが、「日本流」を掲げているだけあって、私には予測できなかった展開を成し遂げたことも高く評価していて、期待している理由の一つです。日本の地域密着型での経験(東京ヴェントス、2018年・現レバンテフジ静岡の前身)をきっかけに、「地域密着」を中心としているこのモデルに高い可能性を感じて、選手育成に対する考えに疑問を持ったままでも、JCLのフォーマットに沿った形で(当時はまだ存在していませんが)、フランス代表の事前合宿を受ける予定だった山梨県山中湖村で地域密着型チームの創立や、「ホームレース」の開催などを促そうと思った理由でもありました。既存の世界の仕組みで育ってきた自分がそう感じているのであれば、ある程度の発展さえ実現できれば、世界に認めて頂けるようになるかもしれませんし、逆に世界から注目を浴びるようになってくるのかもしれないので、そうなってくると風向きが完全に変わってくると思います。

私と同じように、JCLに対して、また「プロの定義」に対して、現時点では疑問を抱いている方はまだ多くいらっしゃると思います。しかし、そういった方には、それでも是非応援していってほしい。そして、JCLを現場で引っ張っている方々、多方面から支えている方々にも、新しいことに挑戦しているからこそ、今までどおり周囲の意見に耳を傾け、柔軟で謙虚に課題を洗い出し、一つひとつ乗り越えていってほしい。どちらのスタンスも間違っていませんから。果たして、うまくいく保証はありませんし、失敗を恐れる理由はいくらでもありますが、大きな変化が起きること、何らかに繋がるは間違いありません。そんな声をお届けしたいなと思っている、今日この頃です。