日本の自転車ロードレース界が先進している部分について(1/2)
日本の自転車ロードレース界が先進している部分について(1/2)

日本の自転車ロードレース界が先進している部分について(1/2)

写真ⒸSatoru Kato

今年9月、「日本の自転車ロードレース界が、なぜ世界から遠ざかっていくようになったのか」という記事の中で、世界で通用する自転車ロードレース界を築く観点において、トップリーグが二つに分裂した近年の流れを厳しく評価していました。

しかし、これはあくまでも「世界で通用する自転車ロードレースを築く」という観点の話であり、結局のところメージャーに引き上げていくために欠かせない道筋だとは思うので厳しい総評に変わりはありませんが、観点を置き換えると、「日本流」を強調したとてもイノベーティブで興味深い取り組みもありました。

上記紹介した記事の中には、「JBCFの中からほとんどの地域密着型チーム「…」が「Jプロツアー」を離れた「…」背景にある数年前からの価値観と考え方の違いがある(ことについて)個人的な見解があり、今回の記事の趣旨ではないので省略します」と書いていたので、その「個人的な見解」について述べていきたいと思いますが、全てを一遍に述べると長文になってしまうので、今回は自分がどの目で見ているのか(1/2)についてお話をさせて頂き、次回は注目し期待を寄せている具体的な取り組み(2/2)について深掘りしていきたいと思います。

どの立場で見ているかによって、評価が全く変わってくる

まず、当たり前のことですが、私が日本語で発信している際、あくまでも日本人向けの内容しか発信していません。日本の環境をどうすれば改善できるかや、世界の中で参考になる部分などの観点で話をしています。対象にしている日本の読者がもっとも興味を持っているのは、自分たちのことだからです。とはいえ、それがあくまでも一つの観点に過ぎず、むしろ日本人ではない自分の本来の観点ではなかったりします。

ヨーロッパ向けに発信している際は視点が逆になります。日本で「本場」と言われているヨーロッパの自転車競技環境は美化されがちですが、このヨーロッパもいくつかの課題を抱えています。日本在住者や業界関係者としての観点はもちろんですが、当然ながらヨーロッパ人としての観点もあり、自転車の話に限らず、どちらにウェイトをおくかによって、見解が全く違ってくることもしばしばあります

日本とはまるで違うにせよ、ヨーロッパも多くの課題を抱えている

もっとも代表的な例で申し上げますと、フランスをはじめ自転車競技歴史の長い国々の多くは、「レース数の急減」という大きな課題に直面しています。

プロ競技だけ見ていると、レベルが年々上がっていき、大会数も大きく変動していないので、発展し続けているようにも見受けられますが、実はピラミッドの頂点を支えているアマチュア部分を取り巻く水面下の環境に関しては、高齢化及び補助金の削減の影響を真正面に受けており、構造的で致命的な問題に面しています。近年のネオプロ選手の若年化の原因でもあったりします。

分かりやすく言えば、私がアマチュアとして活動していた10年前より、今のロードレース大会総数が3から4割ほど減りましたが、この当時も同じことが既に言われていたので、実質的に30年で大会総数が当時の3割ほどにまで減ってきました。チーム数も選手数も、同じ傾向にあります。

どうやって継続してきたかと言えば、私の出身地を例に挙げますと、20年前はローヌ県、ロワール県とアン県の3県(リヨン市の周辺地域)で構成されている「リヨネ地域圏」でした。私が走っていた頃は、このリヨネ地域圏が隣のドフィネ地域圏(クリテリウム・ドゥ・ドフィネのドフィネですね)と合併し、アルプス方面を含めた計8県をまとめる「ローヌアルプ地域圏」に変わりました。更に4年前は、このローヌアルプ地域圏が隣のオーヴェルニュ地域圏と合併し、現在は「オーヴェルニュ・ローヌアルプ地域圏」という計12県の管轄になりました。それでも、地域圏選手権大会を例にあげると、参加者数が「リヨネ地域圏」の当時とはほぼ変わっていないのです。

フランスの場合、毎週末1000円で大会に参加できる理想とされている環境は実は、昔から完全なる無償ボランティアの努力によって成立しているものであり、この仕組みが崩壊しつつあります。理由としては、上記述べた一元化の傾向もそうですが、それを可能としていた社会主義の国柄が薄まってきていること(=補助金が削減されること)や、日本にはまだほど遠いですが社会の官僚化が進んでいること(=安全性を考慮した施策や法律等によるハードルが高まること)などが挙げられます。そのため、ボランティアモデルのアマチュアリズムから抜け出し、パラダイムを立て直す必要がありますが、イノベーションが全くできておらず、衰退がどんどん進んでいるのがヨーロッパのアマチュア自転車競技界の現状だったりします。

「本場」でも、日本から学ぶべき点も多々

本題に戻りますが、そういう観点で見ていると、日本の自転車競技界は非常に先進的で、ヨーロッパの課題に響く取り組みが多いです。なぜなら、そもそもボランティアに頼れる社会構成ではない(労働時間が長く、助成金割合が低いなど)こともあり、「スポーツから最大限の価値を生み出し、稼ぐ仕組みを作ること」に対する意識が高いからです。それが、ヨーロッパに必要な「パラダイムの立て直し」の一つの参考になると思っており、その観点でとても興味深く見させて頂いているわけです。

ここ数年の「ジャパンサイクルリーグ」(JCL)が掲げている企業理念や事業内容は正しくそれに該当しており、数年前から見え隠れしていたこの新しい価値観の誕生に注目していました。全てに賛同しているわけではありませんが、「自分たちだけの力で稼ぎ、ビジネスを成立させる」という点をはじめとして、中には非常に先進的で将来性の高い取り組みも数多くあると考えています。「地域密着型スポーツ」の考えはヨーロッパから入ってきたというイメージが普及していると思いますが、実際には「日本流」の地域密着型モデルは、ヨーロッパのモデルとは全く違うものになっており、どのように違うのか、そして具体的にどの点について興味を示し期待しているのかについて、次の記事で述べていきたいと思います。

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