外国人選手の意見 第6回
外国人選手の意見 第6回

外国人選手の意見 第6回

最近、外国人選手の意見を書く暇はなかなか見つからないが、東京ヴェントスの運営に関わらせてもらった9月中旬から、日本の自転車界を新たな目線で考えることができて、思ったことはたくさんありました。

その一つは、若手選手の育成について。現時点では、若い頃から国際シーンの基準を満たす育成ができる環境は日本にありません。その考えの基、「海外で走ってみたい」と思っている高校生がほとんどです。そして、海外で育成させるのが当然最も効果的な育成と思っている監督、コーチ、元プロ選手もほとんどです。なので、毎年、日本の最も強いジュニア選手、そしてその例に憧れて、自転車競技の経験のない、普通に弱いジュニア選手が何人か海を渡っていきます。

ボンシャンス、エカーズ、チームユーラシア、そして色々な代理人が海外に挑戦する機会を作っています。対象の選手は基本的に、年齢は17歳~20歳の間、場所はフランスとベルギーが90%。自費で海を渡るのは99%の選手。

フランスの例で説明します。フランスでは、18歳までは、年齢のカテゴリー分けで走ります。しかし、ジュニア(17~18歳)からは、ジュニアレースに加えて、レベル順でいえば3、2、1、レベルのカテゴリー分けのレースにも参加できるようになります。そのため、参加できるレースの範囲がとても広くなります。

海外で走る日本人選手は、年齢を問わず、カテゴリー3から始まるのがほとんどです。カテゴリー3というのは、一番下の競技レベルなので、本気で走っているのではなくて、ホビーレーサー向けのカテゴリーです。しかし、海外1年目でカテゴリー2に上がれない日本人選手は半分以上。別に弱いからだけではなくて、戦略、走り方、フォーム、体力、ということの基本的な技術はまだ身に付いていないからです。せっかく日本から海外の自転車競技を経験するために来たにも関わらず、1年にわたってホビーレーサーの他に相手がいなかったという例がほとんどです。技術のある相手選手と一緒に走りたいなら、カテゴリー1で走る必要があるが、そうするとすぐに千切れる選手がほとんどで、有力選手だけといっても、勝負に絡む機会はありません。

そう考えれば、せっかくフランスまで行くのは、本当に割に合いますか?フランスの自転車界が分かる人には、この矛盾がすぐに分かります。

日本人選手が特に弱いわけでもありません。今年のU23世界選手権は、序盤にできた逃げ集団には2人も入っていました。しかし、詳しく見てみれば、ネイションズカップに参加した6人の選手の中、5人が国内で活躍しています(もう一人は途中で国内チームに移籍してきました)。

新城幸也(33歳)と別府史之(34歳)以外には、海外の道を使って成功した例がないのは事実です。この2人がプロに上がったのは、そろそろ10年前の話になります。

文化、言語、基準、走り方、全てが違う、日本人に適応していない環境で無理やり一人で活躍しても、身に付くことが本当にあるのかは大きい疑問。その反面、既に国内外で成績を出している選手が世界の舞台に挑戦するというのは、当然なことですが。

なので、海外に憧れている選手達、そしてそれ以上、自転車競技の経験豊富な監督達などが、同じぐらいの動力を国内の方に向けた方が、日本国内で育成できるようになると共に、日本の自転車界が全体的に発展していくのではないでしょうか。

「海外に行って、自分がダメということに気づいた」とか、「17歳の頃、チームの寮に引っ越して、支えてもらわなくなって自転車を辞めようと思いました」とかのような話は、日本の選手から何回か聞きました。海外でハイレベルスポーツ競技の活躍に適応できる選手がいるとすれば、才能の話はともかくにして、それに苦戦して諦める選手もいます。

ということで、海外で行う活躍を考え直して、国内で育成できる環境を作ることに集中してほしい。

そして最後に、若手選手へのメッセージです。

早くだけ海外に挑戦したい、なるべく早くPで走りたい、と思うのは当然ですが、自分が長期的に、最後的に目指していることを忘れずに、それは本当に正しい段階か、準備が本当にできているか、そしてタイミングが本当に合っているか、としっかり考えてほしい。自分が出来ると思い込んでいても、海外レベル、そして国内トップレベルは甘くない。詳しく見てみたら、完走すらできなくなって、弱くなっていく選手が非常に多いし、モチベーションを失って諦める選手もいっぱいいます。国内で優勝している選手だって、海外で簡単に成功しているわけではないから。

しかし、自分の可能性を信じて、野心を持つのは、成功に欠かせないことなので、自転車競技で食べていけるようになりたい、ツール・ド・フランスで優勝できるようになりたいと思っている選手は、自転車の楽しみを忘れずに、徐々にステップアップできるように応援しています。