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4月 24 2020

オンラインサイクリングの限界

新型コロナウィルスの世界的な感染拡大が続く中、Zwiftはじめ室内でトレーニングできるツールとしてオンラインサイクリングのブームが見られます。それまでも、固定ローラーもスマートトレーナーも普及していましたし、オンラインサイクリング機能アプリも既に存在していましたが、最近は社会交流が見直されている中で、そういったツールを活用した新なビジネスが幅広く展開されています。

自分も、子供の頃から現役まで固定ローラーを日常的に活用していましたし、今でもフランス自転車競技連盟と手を組んでいる大手メーカーの「Saris」と新たな事業展開を準備している最中ですが、最近はオンラインサイクリングの将来性について様々な記事やコメントを目にする機会が多く、サイクルスポーツの将来に対して不安要素も目に浮かんできているので、一歩引いた視点から方向性を考える必要なのではないかと考えています。

ヨーロッパでは、根が深い自転車ロードレース文化を支えている各ワールツアーレース主催者の中には、少しでも露出機会を設け、継続につなげるということで、中止になった大会のオンラインバージョンを代わりに開催している事例が複数ありました。現在、「ディジタルスイス5」というツール・ド・スイスのオンラインレースが行われていますが、第1ステージはロハン・デニス(現TT世界チャンピオン)が優勝し、第2ステージはステファン・クング(現TTスイスチャンピオン(3連覇)、元個人パーシュートやチームTT世界チャンピオン)が勝利したと、結果は明らかにFTPの高い順です。

ロードレースのトレーニング文化が昔から普及しているヨーロッパでは、オンラインレースに参戦すればロードレースに代わるトレーニングができると誰も思っていないので、新型コロナの感染拡大が収束したとたんに、オンラインサイクリングは単なる道具に戻るに違いありません。

しかし、日本では状況が違います。歴史や文化の違いから、メージャースポーツとして普及していないロード(公道)レース文化が薄いため、より適性の高いオンラインサイクリングが継続的に全面に出る可能性が高いです。ロードレースでいう走行環境やビジネスモデルで不足している部分を、オンラインであれば補えるということで、少しずつオンラインに置き換かえるべきではないか、という意見を目にすることが多くなりました。実際にサイクルスポーツのリアルとオンライン競技の力関係のバランスが既に変わっており、ハードルの高いロードレースからハードルの低いオンラインサイクリングに移行しつつあります。

確かに、投資が続けていけば、機材や技術の進化を経て、将来は実走に近い感覚まで再現できることは予想できますが、現段階では全く別物で、物理的な限界もあり、世界的にサイクルスポーツの基盤を支えている「移動・健康・環境」にはいくら頑張っても手は届きません。室内ではエンデュランススポーツに求められている心肺機能の発達(いわゆるベースづくり)はできないし、ケイデンスとトルクが同時にあがる高スピード域の追い込みもできないし、ペダリングの動きまで異なることも科学的に証明されています。そもそも、社会的な違い(就労時間が長く、日の入りが早い)から室内トレーニングが多いことと、ロードレースシーンが違う(ヒルクライム、トラック、クリテリウム、周回コースと普及している種目には持久力が問われない)ことが、ロードレース競技において世界と差が大きい原因になっているので、その差がさらに開いていくことが予想できてしまいます。

ロードレースのトレーニングとして室内練習を取り入れている方に、次のポイントを再意識して頂く必要があると思います。
■ロードレースで強くなっていくためには、心肺のキャパシティー(容量)を最初に伸ばしていく必要があります。固定ローラーでは、短時間高強度や専門的なメニューが中心になり、心肺の動力性能(仕事率)のみが鍛えられるため、計測できる数値は高いものの、回復力、持久力や耐力が低く、本格的なのロードレースでは通用しません。
実はプロ選手含め、日本のほとんどの選手はその状態です。それは、環境の違いが主な原因であり、更に短時間型のトレーニングが中心となるオンラインサイクリングでは、全体的にその傾向が増す恐れがあり、日本と世界の差がさらに開く可能性があります。

オンラインサイクリングにハマっている一般レーサーと、ビジネス展開の一環としてその需要を意識的に養成している企業の立場からすれば、チャンスに見えますが、一方でサイクルスポーツをメージャーにしていくのであれば、様々な注意点もあるように感じています。オンラインサイクリングの展開は、あくまでも別競技という認識がある中で、両スポーツが相乗効果を出して平行して発展していくのか、ロードレース業界自体がオンラインサイクリングに移行していくのかでこれからのサイクルスポーツの普及状況が全く違います。そのため、共通点を活用すべきなのは間違いありませんが、まずは夢と現実の世界をはっきり分ける必要があると感じています。

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